研究実績等

□繰返し履歴・延性き裂を考慮した欠陥からの脆性破壊予測:累積塑性変形推定方法の確立
研究実績・進捗状況等
2016年
1.切欠きから延性き裂を伴って発生する脆性破壊の実験:切欠きを有する鋼試験片の実験を行い,延性き裂を伴った脆性破壊を再現した.載荷方法は単調載荷および3種類の繰返し載荷(一定振幅繰返し載荷,予履歴後の単調載荷,漸増振幅繰返し載荷)であった.実験結果から,延性き裂進展を伴う場合においても,繰返し振幅が大きくなるに従い,累積塑性変形能力が小さくなることが確認できた.また,予履歴後の単調載荷実験から,予履歴(繰返し)により,変形能力が低下することも確認できた.

2.延性き裂進展量の測定:本研究で導入したデジタルマイクロスコープを用いて延性き裂進展量の測定を行った.延性き裂進展は,破面観察から「繰返し履歴中の進展」と「その後の単調部分の進展」に分けることができ,振幅が大きいほど,また,切欠き部分が先に圧縮を受けた方が,き裂の進展が大きいことが確認できた.

3.き裂進展を考慮したワイブル応力の把握:破壊靱性試験である疲労き裂を有する3点曲げ試験を実施するとともに,き裂進展解析を試みた.き裂進展を再現した解析によるワイブル応力の算出には至らなかったが,平面モデルにおける解析により,実験の延性き裂進展挙動再現への道筋を確認した.

4.累積塑性変形能力推定方法の検討・開発:延性き裂を伴って発生した脆性破壊の塑性変形能力推定のため,切欠き先端に作用するワイブル応力と累積塑性変形能力の関係(単調載荷と一定振幅繰返し載荷)に関して,それらが強い相関を示すことを確認した.さらにその相関からMiner則を利用して,他の載荷試験片の累積損傷度(破壊発生を評価する指標となる)を算出した.累積損傷度からは,予履歴後の単調載荷,漸増振幅繰返し載荷の試験片の破壊について,過小評価することが分かった.
 
 
2017年
1.切欠きから延性き裂を伴って発生する脆性破壊の追加実験:切欠きを有する鋼試験片の追加実験を行い,延性き裂を伴った脆性破壊を再現した.載荷方法は,平成28年度の実績(単調載荷,一定振幅繰返し載荷,予履歴後の単調載荷,漸増振幅繰返し載荷)を踏まえて,大きな振幅の一定振幅繰返し載荷,混合振幅繰返し載荷,漸減振幅繰返し載荷を行った.実験結果から,延性き裂進展を伴う場合においても,繰返し振幅が大きくなるに従い,累積塑性変形能力が小さくなることを確認するとともに,これらの関係を定量化した.

2.延性き裂進展量の測定:破面観察から平成28年度で得られた「振幅が大きいほど,また,切欠き部分が先に圧縮を受けた方が,き裂の進展が大きい」ことが追加実験でも確認できた.

3.き裂進展を考慮したワイブル応力の把握:破壊靱性試験である疲労き裂を有する3点曲げ試験および機械切欠きを有する3点曲げ試験を実施し,延性き裂進展を伴った脆性破壊を再現した.その上で,き裂進展解析を行い,き裂進展を考慮したワイブル応力の算出を行った.その結果,平面モデルによる解析では,き裂進展がワイブル応力にあまり影響がないことを確認した.

4.累積塑性変形能力推定方法の検討・開発:延性き裂を伴って発生した脆性破壊の塑性変形能力推定のため,切欠き先端に作用するワイブル応力と累積塑性変形能力の関係(単調載荷と一定振幅繰返し載荷)に関して,近似式により結果をほぼ捉えることができた.さらに,複数の振幅を受ける試験片の累積損傷度(破壊発生を評価する指標となる)を算出し,多少のばらつきは伴うが,損傷度により脆性破壊の発生を評価できる可能性を示した.
 
 
2018年
本研究は,繰返し負荷を受ける切欠き付試験片において,延性き裂進展を伴った脆性破壊に着目し, これによって決する累積塑性変形能力の推定方法を確立することを目的としている.最終年度は実験データの補強のための追加実験を行った. これにより靱性の低い場合と高い場合の両面での検討を可能とした. 加えて,高靱性材料における3点曲げ破壊靱性試験片による切欠き深さのことなる場合での脆性破壊発生を検討するための追加実験を行った. これにより切欠き深さの違いが延性き裂を伴った脆性破壊に及ぼす影響について考察することを可能とした.

本研究の最大の目標である累積塑性変形能力推定方法の検討・開発に関しては, 脆性破壊のクライテリアであるワイブル応力と破断サイクル数との関係を定量化することで,一定振幅繰返し載荷における脆性破壊発生時期の推定, すなわち,累積塑性変形能力推定を可能とした.この結果を基に,マイナー則を用いて異なる振幅を受けて脆性破壊が生じた試験片の損傷度を算出するとともに, これらの場合の脆性破壊によって決する累積塑性変形能力推定方法を提案した. その結果,異なる振幅を受けた場合においても,推定値は実験値を±20%程度の誤差で捉えることができた. 材料そのものに内在する脆性破壊発生のばらつきを考えると,良い精度で脆性破壊の発生を推定できていると言える. この結果は繰返し載荷を受ける接合部等から発生する脆性破壊の予測につながるもので,本研究の最大の成果である.

また,有限要素解析によるき裂進展シミュレーションに関しても,立体モデルによるシミュレーションを実現し, き裂の進展がワイブル応力に及ぼす影響についても明らかにした.